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芒硝について 第31話

2022.12.03

 ご存じのように、漢方薬の原料である生薬はほとんどが植物の根や茎などを乾燥させたものですが、牛の胆石である「牛黄」の様な動物性の生薬もあれば、石膏などの鉱物性の生薬もあります。今回は、鉱物性の生薬である「芒硝」について取り上げてみたいと思います。

 生薬の長い歴史の中で、同名異物・異物同名の物を時折見かけますが、この芒硝もその一つに数えられます。後漢の頃に成立した本草書の「名医別録」には「芒硝」として記載されていましたが、最古の本草書である「神農本草経」には「朴消」と言う生薬名で記載されていました。そして、明代(16世紀)に李時珍が記した「本草綱目」で芒硝と朴消は同一の物とされました。両者の差は純度の問題であるとしたのです。

 天然の芒硝を煮て溶かし濾過し、濾液を冷却後析出してきた結晶を芒硝といい、下層に析出してきた物を朴消であるとされています。一般に、朴消は不純物を多く含むので朴消の方が良品であるとされています。

 主成分は、硫酸ナトリウムで他に微量の塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸カルシウムなどの無機塩が含まれています。

 奈良の正倉院には芒硝が現存しており、1200年を経た現在も風化せず灰褐色の柱状結晶を保っています。ただ、成分を調べたところ硫酸ナトリウムではなく硫酸マグネシウムであったとのことでありました。

 芒硝は、本草学的には鹹(塩からい)・苦で大寒の性質があります。鹹は、固い物を和らげる性質があるとされ、苦は下に引き下ろす、例えば瀉下作用があることを意味します。また、大寒は冷やす作用が非常に強いと言うことを意味します。つまり、芒硝は熱が原因で体内で硬くなった大便を柔らかくし(科学的には大腸内の水分を増す作用があるとされている)、排泄を促していると考えられます。

 東洋医学の古典の「傷寒論」には以下の条文があります。「陽明之為病、胃実家是也」。つまり、陽明病は裏位(身体の内部)に熱が充満していると言う病態を意味します。その結果、大腸が極度の乾燥状態になり硬くなるということです。

 芒硝は同じく瀉下作用のある大黄と組んで瀉下作用が増強され、その結果、解熱することになります。代表的な処方に「大承気湯」や「調胃承気湯」があげられます。

 大承気湯は、大黄・芒硝・枳実・厚朴の4味からなり、非常に強力な瀉下作用があります。細野史郎は、次男の高熱を大承気湯で解熱させました。何日も40度以上の高熱が続き柴葛解肌湯や大青竜湯でも解熱せず、当時師事していた新妻良輔先生に診ていただいて新続命湯と言う薬方を投与したがそれでも解熱しませんでした。そこで、死んでも構わないやと大承気湯をやるとオナラと一緒に大量の黒い大便が出て解熱したと言うことでした。死ぬか生きるかの瀬戸際の様な時に行く様な処方なのでしょう。細野の処方集にはありませんが、ツムラにはある様です。と言うこともあり、個人的には鳥頭湯と並んで非常に怖い薬方と言う印象があります。

 本日の写真は、庭に植えているイカリソウ。栽培は容易で全くの放ったらかしですが、毎年春になると花を咲かせます。全草を淫羊藿と称して強壮強精薬として用います。

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