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漢方のものさし(虚と実について) 第35話

2022.12.09

  漢方では、よく虚証と実証と言った表現をします。どの様な意味があるのでしょう?

  「虚」は空虚あるいは不足の意味で、虚証とは体力が衰え病気に対する抵抗力に乏しく、精気が衰微した状態を示します。それに対して、「実」は充実の意味で、実証とは抵抗力に富み、病気に対して戦う力に満ちているとともに、病邪の力も充実していることを示します。つまり、かなり簡単に言うと、虚証と実証の違いは人体の構成成分である気・血・水が不足しているか否かが重要な指標になります。

 治療としては、プラスマイナスゼロが健康のバロメーターでもあるので、不足していれば薬や食物によって補う治療や指導を行い、過剰にあればそれを瀉する治療を行います。

 例を挙げると、気が不足している場合は気虚と言い気を補う薬物(人参や黄耆など)を含む薬方を用います。補中益気湯や千金内托散などがあります。それでは、気虚のサインとはどの様なものがあるでしょう?気とは、生命を維持していくためのエネルギーですから、元気が無く無気力や食欲が湧かない、目に力が無い、疲れやすいなどのサインが現れます。

 血が不足している場合は血虚と言い血を補う薬物(当帰や地黄など)などを含む薬方を用います。例えば、四物湯などがあります。血虚のサインとは、乾燥状態です。(血は、潤う作用がありますので)乾燥状態ですから、皮膚の乾燥にとどまらず色艶悪かったり、髪がパサついたり、爪が割れやすいなどのサインが現れます。

 実証の場合は一概に言えず難しい部分がありますが、気血水が過剰にあり流れが滞っている場合もあれば、熱が過剰にある場合など色々なケースがあります。滞っている場合は、気ならば枳実や薄荷などの芳香の良い薬物を用いますし、血ならば牡丹皮や桃仁などの薬物、水ならば沢瀉や伏苓などの薬物を用います(ただ、滞っている=実証ではない)熱が過剰であれば、黄連や黄芩などの清熱作用のある薬物を用います。さらに、漢方には、吐かせる・発汗させる・下すと言った攻撃的な治療がありますが、これらは身体の中に余分に存在している物を排出すると言った意味合いがあり、実証の治療と言えるでしょう。

 漢方では、体力が無いのを虚証。体力があるのを実証と言ったりしますが、個人的には曖昧な表現なので使用したくはありません。ニュアンスとしては分かるので便利ではあるのですが。

 また、先日紹介した陽証と陰証ですが、陰陽虚実を一緒に判定すると、陰証は虚証と陽症は実証とそれぞれ一緒になって現れやすく、それぞれ陽実症と陰虚証(陰液が不足した陰虚とは異なる)と呼んでいます。表現はあれですが、戦に例えると陰陽は戦況に、虚実は戦力に例えると分かりやすいかも知れません。

 本日の写真は、当薬局にてディスプレイされている薬研です。やげんと読みます。生薬を刻んだり粉砕する物ですが、使い方にはコツがあります。グルグル回す丸い部分を斜めに傾けて壁と擦りすぎながら生薬を細かくしていきます。真っ直ぐ動かすだけでは怒られますからご注意を!!

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