菊花は、神農本草経という最古の本草書に記載され、上品(生命を養うのが目的の薬で毒性がなく長期服用してもよい)に分類されています。実際に、お刺身の付け合わせとして知られている通り食用としても知られています。東北地方において特によく食用とされ、青森県の八戸地方では阿房宮という品種の食用菊の花弁を摘み取り、型に入れて蒸した後、乾燥したものを「蒸し菊(菊のり)」と呼んで、汁ものや和え物、おひたしなどに利用されています。また中国では菊花をお茶としてあるいはお酒に浸して普通に飲用されています。食用以外としては、乾燥した菊の花を詰めた枕で寝ると安眠でき頭痛が治るとされています。
薬用には、中国原産のキク科のキクの頭状花(花の部分)を用います。中国では2000年以上前からキクを薬用として栽培していた記録があります。
日本に渡来したのは八世紀後半と考えられています。万葉集に菊を詠んだものは一首も見られません。ちなみに、皇室や宮家の紋章に菊花を用いるようになったのは、鎌倉時代に後鳥羽天皇が菊花紋を好まれ、衣服や乗り物などにこれを用いたことに端を発する様ですが、正式に決定されたのは大正十五年十月二十一日とのこととされています。
中国では産地によって呼び名が異なります。安徽省亳県に産する亳菊花は最も佳品とされています。このほか、安徽省の貢菊花や滁菊花、浙江省の杭菊花などが有名です。聖光園のものは杭菊花を使用しています。
『中華人民共和国薬典』に菊花の薬能は以下の通りに記されています。「散風清熱、平肝明目、用干風熱感冒、疼痛、眩暈、目赤腫痛、高血圧症」とあります。つまり、解表(発汗によって肌表の邪を取り除く)・平肝(肝気の昂ぶりを鎮める)・明目・清熱解毒の効能があり、頭痛・めまい・目の充血・視力の低下・可能性の炎症を目標とした処方に配合されています。一口に言って、菊花は目に良い生薬そして食材と言えます。
漢方薬では、明朗飲加菊花、滋腎明目湯(腎気明目湯)、釣藤散や清上蠲痛湯などの処方に配合されています。これらはいずれも、目の疾患あるいは頭痛あるいは高血圧を伴う諸症状をターゲットしています。
次に、目に良い薬物と言えば枸杞子(枸杞の実)が馴染み深いのではないでしょうか。薬膳茶でも菊花と枸杞子はいつもコンビを組んでいます。肝腎を補い、血を補い、目を明らかにする効能があり、視力低下、下肢の倦怠感、性機能障害に応用されます。
蔓荊子は、クマヅツラ科のハマゴウあるいはミツバハマゴウの果実のことで、海岸の砂地に生える海浜植物です。辛涼解表薬の一つで風熱を発散し、頭目を清する効能があり、感冒や上気道炎、結膜炎、頭痛、歯痛などに応用される。
決明子は、マメ科エビスグサの種子の事です。ハブ茶の原料としてして知られている。明目・利水・通便の効能があり、目の充血や痛み、視力障害、夜盲症、高血圧、肝炎、肝硬変、腹水、便秘などに応用される。
最後に紹介するのは、茶葉。つまり、普通の緑茶の事である。清明目、利尿、止瀉などの効能があり、頭痛、多眠、下痢などに応用される。ここで興味深いのは、茶葉を発酵した烏龍茶や紅茶には目に関する効能が見られない事である。
本日の写真は、自宅のアケビ。茎を木通と言い、清熱・利水・通淋の効能があり、膀胱炎や浮腫、湿疹、月経不順、母乳不足に応用される。別名を通草と言う。漢方薬中には、変製心気飲、五淋散、竜胆瀉肝湯、当帰四逆湯などに配合される。果実は、美味だが種ばかりで食べにくい。