前回、芍薬甘草湯に関して書いてみたので、その流れで薬対について書いてみようと思う。薬徴とも言う。
初めて、耳にする方も多いと思いますが、2味の薬物が、その方剤の基本骨格となり方意ともなることを指します。例えば、麻黄ー甘草の組み合わせは、気管支拡張作用があるとされていますが、麻黄ー甘草を含有する麻杏甘石湯は、そっくり気管支喘息の薬方として知られています。
それでは、2つの薬物がそのまま薬方になってしまった例を紹介しましょう。
・沢瀉ー白朮の組み合わせは、沢瀉湯と言います。
金匱要略に出て来ますが、条文を紹介してみましょう。
心下有支飲、其人苦冒眩、沢瀉湯主之。
心下有水飲:みぞおちに、痰飲や水分が停滞している様
冒眩:頭に何か被っている感じがする激しい症状のめまい。回転性のめまい
とあり、回転性の非常に激しい症状のめまいに卓効があります。細野では、苓桂朮甘湯に沢瀉を加味してふらつきから回転性のめまいまで対応しています。沢瀉ー白朮の組み合わせは、脾虚の傾向があり、めまいや頭痛のある人を目標とした半夏白朮天麻湯と言った薬方に見られます。
・大黄ー甘草の組み合わせは、大黄甘草湯と言います。
大黄は、言わずと知れた下剤ですね。ところが、大黄のみを使用するとお腹が痛くなるのですね。そこで、肝臓を組み合わせます。甘草には、薬性を調和する働きがあり、大黄の峻烈な作用を和らげているのです。処方例は、調胃承気湯が挙げられます。大黄、芒硝と甘草の3味だけなのですが、大黄と芒硝の峻烈な作用を甘草は緩和しています。
・甘草ー乾姜の組み合わせは、甘草乾姜湯と言います。
この組み合わせは、温裏作用と言い臓腑を温める働きがあります。乾姜がお腹を温めて、冷えによる腹痛、下痢、悪心、嘔吐を治します。処方例は、小青竜湯が挙げられます。花粉症の薬として知られていますが、花粉症や鼻炎アレルギーの人は、お腹が冷えているケースが多いのです。まずは、冷たい飲食物を控える事が肝心なのが分かります。
最後に、桂枝ー甘草の組み合わせです。
傷寒論の条文を紹介しましょう
発汗過多、其人叉手自冒心、心下悸、欲得按者、桂枝甘草湯主之。
【訳】発汗過多、其の人手をさして、自ら心をおおい、心下悸し、按を得んと欲するものは、桂枝甘草湯之を主る。
とあり、動悸に使用する事が分かります。
細野史郎は、臨床傷寒論の中で以下の様に述べています
「一番驚いたのは、桂枝と甘草の粒剤を二対一の比で混ぜて、それを心悸亢進を起こしている患者に飲ませてやりましたら、飲んで暫くするうち、十分もしないうちに治りました。この時は、たまたま注射器や注射薬もない時で、どうしようかと思っていた。それで、もうこの桂枝甘草湯しかないと思ってやってみたら、うまいこと効きました。やはり、「古方の妙、思議すべからず」です。それから後、動悸を打つ人には頓服で与えています。」とありました。
この様に、芍薬甘草湯でもそうですが、漢方薬も薬味が少なければ少ないほど効き目が早くシャープである事が分かります。
本日の写真は、今日の賄いカレー。レンズ豆のカレーです。スパイスは、ターメリックとコリアンダーとクミンのパウダー、生姜、ニンニクだけで済ませようと思えば出来ます。欲を言えば、ペッパーとマスタードシード、クミンシードがあればなおいいですが。調理時間15分程度の簡単メニューです。(レンズ豆を茹でる時間は除く)